コラム

変わる日常、変わらない働き方
「新型ウイルス感染拡大防止のため」。
4月に3歳になった息子は誕生日を迎えた頃から、そう口にする。
公園で遊んでくれた年長のお兄さんが東屋に誘ってくれた時も、
大きな声で「新型ウイルス感染拡大防止のため、行かない」と言った。
もちろん、お兄さんはそのまま息子の前から去っていき、二度と戻って来なかった。
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どこに行くにも、その小さな手にアルコールを吹きかける。
娘の陶器のような肌にも、マスクによる肌荒れができた。
外食はテイクアウトに代わり、買い物もネットショッピング。
初盆の婚家はLINEのビデオ通話で義姉妹とオンライン念仏。
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日常は大きく変わった。
ビフォーコロナなんて「B.C.」、まるで紀元前みたいじゃないか。
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これで大きく働き方が変わった人も多いはず。
在宅や時短勤務、転勤の無期延期、海外の駐在員は帰国できずにいる。
そして、効果のほどは知らないけれど、ワーケーションなんてものまで。
やればできるじゃん的なものもあれば、憎んでも憎みきれない現状もある。
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さて、私は…である。
子どもたちが休校や登園自粛期間中だった5月は、ほとんど働いていない。
仕事の依頼を頂いても、子どもたちが家にいることを理由にお断りした。
通報されなかったことが奇跡だと思えるほど我が家は悲惨な状況だったけれど、
断捨離が進み、ずっと欲しいと言われていた娘の専用スペースを作ってあげられた。
子どもたちがリビングで繰り広げるあれこれに、いちいちイラつくことも減った。
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で、6月以降、私はB.C.と同じ働き方をしている。
紀元前ではなく、ビフォーコロナのほう。
変わったことは、マスク着用、取材前に手の消毒、今までより二歩離れる、くらい。
相変わらず家で、それも子どもたちが移動したおかげで静かになったリビングで
コーヒー片手にのんびり原稿を打っている。
つまり、たいした変化はない。
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恵まれている。
仕事が減り、それでも支援が届かず困窮しているフリーランスだって多いから。
本当に、恵まれている。
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フリーライターって、B.C.の時代からリモートワークだし、
基本的にはソーシャルディスタンスも保っている職種じゃん−。
そんな一種の“先輩風”みたいなものを吹かせながら明日も取材に向かう。
そこに立てるご縁と家族の理解に感謝しながら。
(フリーライター・名倉佐記)